大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)2388号 判決 1974年10月08日

原告 オリエント・リース株式会社

右訴訟代理人弁護士 田村徳夫

同 松田安正

同 佐伯照道

被告 太洋印刷材料株式会社

被告 佐藤忠男

右被告両名訴訟代理人弁護士 泥谷伸彦

主文

一、被告らは原告に対し、各自、金二三九万三、〇九二円および内金二二四万六、八一四円に対する昭和四五年五月七日から完済まで金一〇〇円につき一日四銭の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

三、この判決は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

主文と同旨。

二、被告ら

1.原告の請求を棄却する。

2.訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一、請求原因

1.原告は、昭和四一年五月四日被告会社に対し、ヘルメス六〇〇会計機(カシオ乗算機構付)一台を左記のとおりリースすること(使用収益させて、その対価としてリース料を受領すること)を約定し、同月六日右リース物件を引渡した。

(一)リース期間 物件の引渡の日から五か年

(二)リース料およびその支払期日

被告会社は原告に対し、リース期間中、毎回金七万八、八四八円のリース料を、第一回は物件引渡時に、爾後は毎月物件引渡日の対応日(本件では毎月六日)に六〇回にわたり各先払いする。

(三)リース料の支払を一回でも遅滞したときは、原告は、催告を要しないで、リース料の全部または一部の即時支払を請求できる。

(四)リース料の支払を遅滞したときは、日歩四銭の割合による遅延損害金を支払う。

2.被告佐藤忠男は、昭和四一年五月四日原告に対し、右リース契約により発生する被告会社の原告に対する債務につき、連帯保証した。

3.被告会社は、昭和四三年一二月六日分以降のリース料を支払わない。

そこで、原告は、昭和四五年四月九日被告会社に到達の書面をもって、同書面到達後一週間以内に右延滞リース料および遅延損害金を支払うよう催告するとともに、右期間内に支払わないときは、将来のリース料全部の即時支払を請求する旨の意思表示をしたが、右期間が経過するも被告会社はなお支払わない。

4.よって、原告は、本件リース契約および連帯保証契約に基づき、被告らに対し、各自、左記(一)ないし(三)の合計金二三九万三、〇九二円および(一)と(三)の合計金二二四万六、八一四円に対する昭和四五年五月七日から完済まで日歩四銭の割合による遅延損害金の支払を求める。

(一)第三二回分(支払期日昭和四三年一二月六日)ないし第四九回分(支払期日昭和四五年五月六日)のリース料(一八回分)計金一四一万九、二六四円

(二)右各リース料に対する各支払期日の翌日から昭和四五年五月六日まで日歩四銭の割合による遅延損害金一四万六、二七八円

(三)第五〇回分(支払期日昭和四五年六月六日)ないし第六〇回分(支払期日昭和四六年四月六日)のリース料(一一回分)計金八六万七、三二八円から、昭和四五年五月七日以降各支払期日までの間の日歩二銭五厘の割合による未経過利息金三万九、七七八円を控訴した金八二万七、五五〇円

二、請求原因に対する被告らの認否

請求原因1.2.3の事実は認める。

三、被告らの抗弁

1.本件リース物件(ヘルメス六〇〇会計機-カシオ乗算機構付―一台)は、その性能が悪く、とかく故障がちで、計算ミスが続出するという瑕疵があったところ、昭和四三年一〇月には修理不能となり、使用不能の状態となった。

2.そこで被告会社は、同年一二月一〇日ごろ原告に対し、原告の貸主としての義務の履行が不能となったことを理由に、本件リース契約を解除する旨の意思表示をした。

3.かりに右の解除が認められないとしても、被告会社は昭和四五年九月二二日の本件口頭弁論期日において、本件リース契約を解除する旨の意思表示をした。

4.なお、右解除の効果が発生するまでの間のリース料支払については、原告は貸主としての義務を履行していないので、被告らは同時履行の抗弁を主張する。

四、抗弁に対する原告の認否

抗弁1.2の事実は否認する。

五、原告の再抗弁

本件リース契約において、リース物件に、その規格・仕様・性能・機能等の不適合・不完全その他いかなる瑕疵があっても、原告は責任を負わない旨の免責特約がなされているから、被告ら主張の解除権ないし同時履行の抗弁権はいずれも発生する余地はない。

このことは、リース契約の本質に由来する。すなわち、企業者がある物件の使用収益を希望するとき、リース業者は、その資金をもって、売主(製造業者、販売業者等)から当該物件を購入して売主に直ちに代金を支払い、他方、右企業者に対し当該物件をリースしてこれを使用収益させ、リース料を徴収して、立替資金、金利、その他の諸経費を回収するものであり、リース制度は、企業者に当該リース物件の延払いによる購入と同一の経済的効果をもたらす、リース業者の企業者に対する金融上の便宜供与の一形態である。

したがって、リース物件に瑕疵があるときでも、リース業者は責任を負わず、リース業者が売主に対して有する損害賠償請求権を企業者に譲渡したり、あるいは、企業者が直接売主との間で保守サービス契約を締結するなどの方法により、これに対処しているものである。

六、被告らの再々抗弁

原告主張の免責特約を定めた契約条項は、次の理由で、例文と解され、また信義則に反するので、無効である。また、右条項に基づきリース物件の瑕疵につき責任を負わないで、リース料の支払を求める本訴請求は、権利の濫用である。

(一)本件リース契約締結に際し、原告は被告会社に対し、右免責条項の存在につき、充分な説明をしなかった。

(二)右条項に従えば、被告会社は、リース物件につき瑕疵があり、これを使用収益することができないときでも、リース料の支払義務を免れず、被告会社にとって著しく不利であり、他方原告に一方的に有利である。また、被告会社の救済手段として原告の主張する方法は、十分なものではない。

第三、証拠<省略>。

理由

一、請求原因1.2.3の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二、被告らは、本件リース物件たるヘルメス六〇〇会計機(カシオ乗算機構付)の瑕疵を理由として、本件リース契約の解除ないし同時履行の抗弁を主張して、リース料の支払を拒否するものであるところ、成立に争いのない甲第一号証によれば、本件リース契約においては、リース物件の規格、仕様、性能、機能等に不適合、不完全その他の瑕疵があったときでも、原告はその責任を負わない旨の免責条項(第六条)が定められていることが認められるから、これによれば、被告らは、そのような契約解除や同時履行の抗弁権を主張して、リース料の支払を拒むことはできないものといわなければならない。

そこで、右のような免責条項が定められた根拠について考えるに、前記甲第一号証、証人宮内義彦の証言、弁論の全趣旨を総合すれば、次のように認められる。すなわち、本件のようなリース制度は、アメリカにおけるいわゆるフアイナンシヤル・リースの制度が我が国に導入されたものであり、要するに、リース業者は、一方では、機械等の設備を購入して使用収益したいが購入するための資金的余裕のない購入希望者に代って、当該物件を、自己の資金をもって売主(製造業者、販売業者等)から購入して代金全額を即時に支払い、他方では、右購入希望者に対し当該物件を長期間拘束して使用収益させ、その期間中に、右購入代金、金利、その他の諸経費をリース料として購入希望者から回収するという制度である。すなわち、リース業者は、早期に資金の回収を希望する売主と、当該物件を延払いによって購入使用したい購入希望者との間に介入し、売主との間には当該物件の売買契約を、購入希望者との間にはリース契約を、それぞれ締結することにより、双方の経済的要請を満たさせるものである。そしてこの場合、購入物件の機種、売主、納期、価格、保守等の購入に関する諸条件を選択特定するのは購入希望者であり、リース業者は、購入希望者が希望し決定したところにしたがって、リース契約を通じて、売主と購入希望者との間の間接的な売買を媒介するのであり、法律上の形式にかゝわらず、経済的には、購入希望者に対し金融上の便宜を供与することがその本質であり、これによりその者が当該物件を購入したのと同一の効果をもたらすものである。したがって、リース業者は、購入希望者に供与した融資金の確実な回収を図らなければならず、このために、リース契約においては、リース物件は実質上売主と購入希望者との間の売買により購入希望者に移転したものとして、当該物件にいかなる瑕疵があろうともリース業者において一切その責任を負わず、購入希望者に対し、そのような瑕疵を理由とするリース契約の解除リース料の支払拒絶を許さず、常にリース料の支払を義務づけておく特約をする必要性があるのであり、反面、リース物件に瑕疵ある場合の購入希望者の保護としては、リース業者が売主に対して有する損害賠償請求権をこれに譲渡したり、あるいは、購入希望者をして直接売主との間で当該物件の保守サービス等の契約を締結させるなどの方法による配慮がなされているのであって、前記免責条項は充分な合理的根拠を有するのである。かように認められる。

三、1.ところで被告らは、本件リース契約の締結に際して、原告が右免責条項の存在につき充分な説明をしなかったと主張するか、これに符合する被告会社代表者兼被告本人佐藤忠男の供述は、前掲甲第一号証、成立に争いのない甲第六号証、証人宮内義彦の証言に照らして、採用することができず、他に右事実を認めるに足る証拠はない。

2.次に、被告らは、右免責条項は被告会社にとって著しく不利である反面、原告にとって一方的に有利であると主張する。しかし、リース契約における右免責条項は、制度の本質的要請に基づくもので、それ自体合理的根拠を有することは前認定のとおりであり、前掲甲第一号証によれば、本件リース契約において、リース物件の瑕疵により被告会社が損害を受けたときは、被告会社が一定の義務を履行している限り、原告が売主に対して有する損害賠償請求権を被告会社に譲渡することが約定されていること(第六条)が認められ、また、成立に争いのない乙第六号証の一、二、証人大田昇の証言、被告会社代表者兼被告本人佐藤忠男の供述によれば、被告会社は本件リース契約の締結に先立つ昭和四一年四月一二日、本件リース物件の売込先である株式会社日本事務技術研究所との間で、本件リース物件につき補修サービス等の契約を締結していることが認められるのであって、これらの方法が被告会社の保護にとって完全とはいえないにしても、一応の救済手段は講ぜられているといえるから、必ずしも被告らの右主張はあたらない。

3.故に、右免責条項を、例文と解し、または信義則に反するものとして、無効であるということはできないのみならず、右条項が有効なものと解される以上、原告がリース物件の瑕疵につき責任を負わないで、リース料の支払を請求したからといって、これを権利の濫用ということはできない。

四、したがって、本件リース物件に被告ら主張の瑕疵があったかどうかの点につき判断を加えるまでもなく、被告らのリース契約解除ならびにリース料支払拒絶の抗弁は失当であるというほかはない。

五、そうすると、被告らは原告に対し、各自、左記(1)、(2)、(3)の合計金二三九万三、〇九二円、および(1)、(3)の計金二二四万六、八一四円に対する昭和四五年五月七日から完済まで日歩四銭の割合による遅延損害金を支払う義務あるものというべきである。

(1)、第三二回分(支払期日昭和四三年一二月六日)ないし第四九回分(支払期日昭和四五年五月六日)のリース料(一八回分)計金一四一万九、二六四円

(2)、右(1)の各リース料に対する各支払期日の翌日から昭和四五年五月六日まで日歩四銭の割合による遅延損害金一四万六、二七八円

(3)、第五〇回分(支払期日昭和四五年六月六日)ないし第六〇回分(支払期日昭和四六年四月六日)のリース料(一一回分)計金八六万七、三二八円から、昭和四五年五月七日以降各支払期日までの間の日歩二銭五厘の割合による未経過利息金三万九、七七八円を控除した金八二万七、五五〇円

よって、原告の本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田延雄 裁判官 池田勝之 裁判官今枝孟は転任のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 松田延雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例